第42回全日本大学対校駅伝(11月7日)

 これまで、最も安定した走りをつづけてきた矢澤が、まさかの失速。「一瞬、みんなの調整を誤ったかと思った」(相楽コーチ)ほど「やや衝撃の」滑り出しとなった。
 しかし、駅伝はチームワーク。ルーキー大迫が動揺も見せず、先頭を行く東洋・柏原を追い上げ、2位に押し上げると、4区佐々木がトップに躍り出る。その後は、一度も首位を譲ることなく、15年ぶり5回目の優勝を果たした。
「悔しさはバネになる」という。しかし、短期間で強力な鋼のバネが造られることは稀である。その稀有を実現したのが、出雲で優勝したにもかかわらず「浮かぬ顔」をしていた大迫であり、志方であり、走ることのできなかった猪俣である。こういう選手たちがそろっているチームこそが「本物の力」を持っているといえる。出雲では、6区間で4人の区間賞を出したが、伊勢は8区間で区間賞は2人だけ。それでも強い勝ち方をしたのが、その証明だろう。
 伊勢の内宮には、天照大神の和御魂(にぎみたま)と荒御魂(あらみたま)が祀られている。これは、平常心と闘争心(勇猛心)という神の二つの働きを表しているそうだ。早稲田の優勝も、まさに全員の平常心と闘争心がかみあって勝ち取ったものだ。
 ところで、ゴールまで3キロ強の地点に祀られている倭姫命(やまとひめのみこと)は、三種の神器の一つ、草薙の剣をヤマトタケルに授けるとき、「はしゃがず(慎んで)、怠らず」という忠告をしたという。選手たちも同じ心がけでいるならば、必ず三種ならぬ三冠を授かるだろうと思う。

 さらに、伊勢市駅で購入した近鉄特急の座席番号は、3号車33番。まるで、3冠を暗示しているような偶然だった。


 出雲から伊勢、そして箱根へ……すべての道は早稲田に通ず!?
 箱根の道にグンと近づいたのは、確かだ。しかし、インカレ無視でやってきた駒・東は、間違いなく箱根に照準を合わせている。大迫、志方だけでなく、駒・東の1年生も成長していることがよくわかった。油断なき準備が必要なことはいうまでもない。

ダークレッド色の福が福!

<総合成績>
1位 早稲田大学 5時間13分02秒(大会新)
2位 駒澤大学 5時間15分22秒
3位 東洋大学 5時間16分21秒
4位 日本大学 5時間19分18秒
5位 東海大学 5時間19分45秒
6位 明治大学 5時間19分52秒
(出雲で2位だった日体大は8秒差の7位でシード権を逃した)

<区間個人記録>
◎1区14.6キロ
1位 設楽啓太(東洋大)42分42秒
2位 早川 翼(東海大)42分54秒
3位 三岡大樹(京産大)43分05秒
9位 矢澤 曜(早 大)43分28秒

◎2区13.2キロ
1位 鎧坂哲哉(明 大)37分38秒(区間新)
2位 O・コスマス(山梨学院)37分45秒
3位 大迫 傑(早 大)37分55秒

◎3区9.5キロ
1位 由布郁人(駒 大)27分02秒(区間新)
2位 本田勝也(東洋大)27分15秒
3位 八木勇樹(早 大)27分20秒

ラスト100、八木のスパート。

◎4区14.0キロ
1位 佐々木寛文(早大)40分23秒
2位 川上遼平(東洋大)40分55秒
3位 千葉健太(駒 大)41分10秒

◎5区11.6キロ
1位 志方文典(早 大)33分47秒(区間新)
2位 設楽悠太(東洋大)33分56秒
3位 西嶋 悠(中 大)34分33秒

区間新の快走で東洋・設楽(悠)を振り切り、猪俣につないだ志方(左)。

◎6区12.3キロ
1位 窪田 忍(駒 大)36分03秒
2位 猪俣英希(早 大)36分08秒
3位 田中貴章(東洋大)36分11秒

三大駅伝初陣の猪俣は落ち着いて入り、後半、東洋を突き放した。

◎7区11.9キロ
1位 飯田明徳(駒 大)35分09秒
2位 前田悠貴(早 大)35分37秒
3位 渡邉克則(帝京大)35分49秒

「前半、飛ばしすぎて、後半きつかった」とはいえ、昨年のリベンジは果たした前田。

◎8区19.7キロ
1位 G・ベンジャミン(日大)56分42秒
2位 村澤明伸(東海大)57分42秒
3位 平賀翔太(早 大)58分24秒

余裕ある走りで、残り5.1キロを通過する平賀。

平賀(右端)のゴールは、早大史上最速のチームが史上最強チームの称号も得た瞬間だったかもしれない。このまま順調にいけば、箱根では今回の8人に加え、ゴールで待ち受けていた4年生3人(左から中島、高野、北爪)と三田が残りの2席を争うことになるのだろう。さらに、「最後の逆襲」を仕掛ける選手が現れれば、最速、最強に加え、無敵のチームが作り上げられるはずだ。

最後には、エンジ色の「太閤出世餅」の看板すら、縁起がよさそうに見えた。

2010-11-08