第23回出雲全日本選抜駅伝競走(10月10日)

5冠そして駅伝2年連続3冠の夢は破れた。しかし、平賀翔太は冷静だった。「昨年から、連続しての5冠と考えても、十分価値があると思う」という彼の言葉に、タイガー・ウッズのグランド・スラムを思い出した。ウッズが、年をまたいで4大大会を制覇したとき、マスコミは「グランドスラム達成!」と、賞賛したのだ。少しも悲観することはない。プラスに考えれば、これで見えない重荷から解放され、ひとつひとつの大会への集中度が高まるはずだ。
「大震災のあと、授業の関係もあり、第1次合宿では、全員がそろって練習できなかった。第2次、3次と段階を踏むごとに力は上がってきたが、故障した有力選手もあり、今大会は調子のいい選手を使った。結果は、悔しいが、他校の力、とくに駒澤の強さもわかったし、最終的には箱根に向けて最大限の力を発揮できるよう仕上げていきたい」という渡辺監督の表情にも暗さはなかった。

<1区>8.0キロ
●個人記録(チーム順位)
1位 ダンカン・モゼ(拓大)22分48秒
2位 キラグ・ジュグナ(第一工業大)22分55秒
3位 大迫 傑(早大)23分01秒

残り1.2キロ。ジュグナにぴったりつく大迫。

<2区>5.8キロ
●チーム順位
1位 明治大学 39分28秒
2位 早稲田大学 39分33秒
3位 東洋大学 39分37秒
●個人記録
1位 鎧坂哲哉(明大)15分56秒(区間新)
2位 上野 渉(駒大)16分12秒(区間新)
3位 川上遼平(東洋大)16分16秒(区間新)
6位 矢澤 曜(早大)16分32秒

4mを超える追い風のなか、区間新続出の2区だったが、矢澤は3キロを過ぎてから伸び切れなかった。「4年生が引っ張らなければならないのに、責任を果たせなかった。ユニバーシアードに照準を合わせ、全力で臨んだため、日本に帰ってから走れない状態がつづいた。それでも、使ってくれた監督の期待に応えようと思ったが、現段階では力が足りなかった。全日本、箱根と調子を上げて、必ず巻き返したい」(矢澤)

<3区>7.9キロ
●チーム順位
1位 早稲田大学 1時間02分42秒
2位 東洋大学 1時間02分45秒
3位 明治大学 1時間02分56秒
●個人記録
1位 設楽悠太(東洋大)23分08秒
2位 山本修平(早大)23分09秒
3位 本田 匠(日体大)23分23秒

設楽にいったん追いつかれたものの、山本は、気迫あふれる走りで、最後はしっかり振り切った。「重要な区間を任せられたが、どうしても走りたかったので、緊張するより、うれしく、楽しく走れた。チームとして負けてしまったので、満足はしていないが、自分の走りはできたと思う」(山本)

<4区>6.2キロ
●チーム順位
1位 東洋大学 1時間21分21秒
2位 早稲田大学 1時間21分24秒
3位 日本体育大学 1時間22分09秒
●個人記録
1位 田中貴章(東洋大)18分36秒
2位 三田裕介(早大)18分42秒
3位 高田翔二(日体大)18分45秒

三田は好走といっていいだろう。しかし、モスト・インプレッシブ・ランナーに選出された田中の粘りがさらに上回った。ゴール後、三田は体調不良を訴え、病院に担ぎ込まれたが、心配はないようだ。発表された気温は25.5℃だが、路上では30.8℃を記録し、風の弱まった後半は過酷なレースになった。

<5区>6.4キロ
●チーム順位
1位 東洋大学 1時間40分23秒
2位 早稲田大学 1時間40分48秒
3位 駒澤大学 1時間41分39秒
●個人記録
1位 市川孝徳(東洋大)19分02秒
2位 久我和弥(駒大)19分09秒
3位 前田悠貴(早大)19分24秒

5キロまでは、市川に食い下がっていたが、終盤、失速気味だった前田。

<6区>10.2キロ
●チーム順位
1位 東洋大学 2時間10分43秒
2位 駒澤大学 2時間11分09秒
3位 早稲田大学 2時間11分13秒
●個人記録
1位 窪田 忍(駒大)29分30秒
2位 村澤明伸(東海大)29分40秒
3位 ジョン・マイナ(拓大)29分48秒
6位 平賀翔太(早大)30分25秒

区間賞の窪田に迎えられゴールする平賀。「走りはじめたら、体が重いのを感じたので、前をムリに追いかけるより、慎重に走ったほうがいいと判断した。しかし、最後までペースを上げることはできなかった。さらに、練習を積んで、全日本、箱根では結果を出す」(平賀)

表彰式後、応援に駆け付けた出雲稲門会、松江稲門会、渋谷稲門会、WESCなどのメンバーと記念撮影。

出雲に集った神々が、ここで「お別れの晩餐」をして各々の国に帰っていくという万九千神社(まんくせんじんじゃ)。「万が一苦戦したときはよろしく」とお願いしたつもりだったが、苦戦にしか反応しなかったようだ。2区の3キロ地点近くにある(正しくは、まんくせのやしろと言うらしいが)。

神々ならぬ、神々しい選手たちの「お別れの宴」では、福島翔太主務が他を寄せつけない強さで爆走!

『地団駄は島根で踏め』(わぐりたかし著/光文社新書)によると、「地団駄を踏む」の語源は奥出雲にあるそうだ(説明は長くなるから省略。語源の地を訪ねて解明するというおもしろい本なので、興味のある方は一読を)。文字通り、出雲で地団駄を踏んだ選手たちは、3冠宣言をした東洋大のランナーが見せたこの笑顔を忘れず、リベンジ、リベンジ!
56歳の若さで世を去ったアップルのスティーブ・ジョブズのモットーは、「Stay hungry,Stay foolish」だった。いまのチームに贈る言葉としてもふさわしいのではないか。

2011-10-11