第85回東京箱根間往復大学対校駅伝(往路)

<往路>1月2日
 1区で、まず1年生の矢澤曜が「流れ」を引き寄せ、4区までは完全に早大ペースの「流れ」ができたように見えた。
「世の中には、上り坂と下り坂、そして、まさかがある」というジョークがある。その「まさか」が「上り坂」で起きた。
 東洋大のスーパールーキー・柏原竜二の驚異的追い上げによって、早大は目の前にあった往路2連勝を逃した。
 人はこれを「東洋の奇跡」と呼ぶのだろうか。
 昨年も「流れ」と「つなぎ」の話を書いたが、東洋大は、1、2区は悪い「流れ」で入った。しかし、3区で、エース・大西智也が望みを「つなぐ」区間3位の走りを見せると、5区でスーパーエースが一気に「流れ」を早大から奪い取った。
 1区で出遅れた優勝候補・駒大は最後まで「流れ」に乗れず、往路15位。優勝はほぼ絶望となった。

[1区]21.4キロ
●矢澤 曜(神奈川・多摩・1年)1時間04分43秒(1位)
 矢澤は、デビュー戦の六大学対抗のときから、レース運びに新人離れしたうまさがあった。
 そのうまさが、大舞台で生きた。予想通りのスローな展開のなか、矢澤は、箱根駅伝の雰囲気に少しも飲まれることなく、冷静な走りで、区間賞。
 上尾ハーフで矢澤は、駒大の末松裕一にラスト勝負で突き放された(末松2位、矢澤6位)。しかし、この1区では、終盤、ズルズル後退していった末松と対照的に、矢澤は、19.6キロから後続を引き離し、トップで尾崎にタスキをつないだ。
 駒大は、末松で矢澤には勝てると読んでの起用だったと思うが、大誤算のスタートとなった。
 この1区の「流れ」が、そのまま早大と駒大の「流れ」の差になったといえるだろう。
「スタート前に、必ずスローになるから、六郷橋までは絶対に足を使わないようにといった。1区は私も経験があるが、大変緊張するし、1年生が走るのは難しい。しかし、指示通りに走ってくれ、いい滑り出しができた」(渡辺監督)
 早大の1年生1区区間賞は、区間新で走った、91年の武井隆次以来だ。

帝京大・西村知修を先頭に一団となって品川駅前を通過。西村の(写真で)右斜め後ろに矢澤の顔がかろうじて見える。

帝京大・西村知修を先頭に一団となって品川駅前を通過。西村の(写真で)右斜め後ろに矢澤の顔がかろうじて見える。

[2区]23.2キロ
●尾崎貴宏(秋田・秋田中央・3年)1時間09分36秒(区間7位)
 昨年、竹澤の故障で、9区の予定から急きょ1区に起用された尾崎だったが、今年も竹澤に代わり2区を任された。
 尾崎は、モグス(山梨学院大)、ダニエル(日大)、木原真佐人(中央学院大)、外丸和輝(東農大)、徳地悠一(中大)といった各校のエースに抜かれはしたものの、一度、抜かれた日体大・森賢大を12キロ手前で抜き返すという粘りの走りをみせた。
 昨年の高原を、40秒ほど上回る記録で竹澤につないだ尾崎の安定感はさすがだった。
 山本浩之が区間17位だった東洋大は、この時点で14位。
 駒大期待の宇賀地強は、区間6位と振るわず、順位を8位まで上げたに留まった。

保土ヶ谷駅前で、日体大・森に迫る尾崎。

保土ヶ谷駅前で、日体大・森に迫る尾崎。

[3区]21.5キロ
●竹澤健介(兵庫・報徳学園・4年)1時間01分40秒(区間1位)
 竹澤は今年も2区を走れなかった。しかし、その力は故障 
しても、群を抜いていた。
 3.5キロで先行する3位集団(東農大、中大、日大、中央学院)を抜き去ると、先頭の山梨学院に16秒差までつめよる快走で、区間新をマーク。
「今年は、優勝するチームとして、なにをしていかなければならないか、一人一人が目標を決めてやってきました。結果は出てしまったから、しかたないですが、この悔しさとか、なにが足りなかったのかは、次の人たちが引き継いで考えてくれると思います。個人としては、4年間、オリンピックも含めて、いろいろなことにチャレンジしてきて、その結果、2区を走れる状態ではなかったということなので、残念ですが、しょうがないですね。まあ、この記録で走れたのですから、いまの状態では完璧だったと思っています」(竹澤選手)
 竹澤、佐藤悠基(東海大)につづき、東洋大・大西が区間3位の走りで、順位を8位まで押し上げた。東洋大の反撃態勢はここからはじまったといっていいだろう。

竹澤コールが沸き起こるなか、19.5キロ地点を通過する。

竹澤コールが沸き起こるなか、19.5キロ地点を通過する。

[4区]18.5キロ
●三田裕介(愛知・豊川工・1年)55分04秒(区間1位・区間新)
 三田は、1キロで早くも山梨学院・後藤敬をとらえて並走。10キロすぎに、後藤を振り切りトップに躍り出た。
 馬場圭太(帝京大・区間2位)、松本昂大(明大・区間3位)といった他校のエース級にタイムで上回った見事な走りだった。
「三田には、区間新を狙いなさいといって、送り出した。指示通りの走りで、区間記録を16秒更新してくれた。ここまでは、予定通りのいい流れできた」(渡辺監督)
 予定通りでないのは、駒大。3区の渡辺潤(区間21位)につづいて、ここでも高橋徹が区間19位で、万事休す!

5区]23.4キロ
●三輪真之(石川・星陵高・4年)1時間22分38秒(区間13位)
 三輪は、伊勢にも、上尾にも出場せず、昨年の駒野以上の練習をこなしてきた。しかし、10キロすぎ、足にケイレンを起こした三輪は、19.3キロで柏原に追いつかれ、抜かれる。20.8キロで、いったんは追いついたものの、22キロ手前で再び突き放され、思わぬ逆転劇となった。
「1年のとき、アンカーで抜かれ、昨年は9区で抜かれ、なんだか『抜かれ役』のようになってしまったが、一度抜かれてからのがんばりは、練習をしっかり積んできた成果だと思う。三輪の登りで往路優勝を決めたかったが、柏原くんが強すぎた」(渡辺監督)
 トップ東洋大と早大との差は22秒。駒大は7分55秒。
 総合優勝争いは、東洋、早稲田の2校に絞られた。

2009-01-07